神戸地方裁判所 昭和38年(行)6号 判決 1965年12月22日
原告 辰巳勝乗
被告 国・兵庫県知事
主文
原告が、被告両名に対して買収処分の無効確認を求める訴を却下する。
被告国は、原告に対し、別紙目録記載の土地につき農林省が神戸地方法務局尼崎支局昭和三七年八月一四日受付第一六、八九〇号をもつてした所有権移転登記を持分二分の一の所有権移転登記に更正登記手続をせよ。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は原告と被告知事の間では原告の負担とし、原告と被告国の間では之を二分し、その一を原告その余を被告国の負担とする。
事実
(当事者双方の申立)
第一、原告訴訟代理人は次のような判決を求めた。
被告両名は、別紙目録記載の各土地につき、農林省が昭和三七年三月一日付をもつてなした買収処分は無効であることを確認する。
被告国は、別紙目録記載の各土地につき、農林省が神戸地方法務局尼崎支局昭和三七年八月一四日受付第一六、八九〇号をもつてした所有権移転登記の抹消登記手続をなせ。
訴訟費用は被告両名の負担とする。
第二、被告両名指定代理人は次のような判決を求めた。
(一)、本案前の申立
原告の請求中買収処分の無効確認を求める訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
(二)、本件について申立
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
(当事者双方の主張)
第一、請求原因
(一)、原告は、兵庫県知事から別紙目録記載の各土地(以下本件土地という)につき、昭和二二年一〇月二日自作農創設特別措置法第一六条に基づき売渡しをうけ、所有権を取得し、昭和二五年三月一七日、所有権移転登記がなされた(但し登記官吏の過誤により、原告名義とすべきところ、原告の実弟である訴外辰己又一名義で登記され、昭和三七年七月七日に至つて、原告名義に訂正された。
ところが、兵庫県知事は、原告が昭和二四年以来、本件土地の耕作を訴外辰己又一に依頼しているとして、昭和三七年三月一日本件土地を農地法第一五条に基づいて買収し、国は右土地につき昭和三七年八月一四日農林省名義で、所有権移転登記手続を経由した(原告は、右買収処分の買収令書に対し訴願しなかつた)。
(二)、しかし、右買収処分は次のような理由により無効である。
(イ)、尼崎市農業委員会は、本件土地買収につき、農地法第八条一項所定事項の公示並びに同事項の原告への通知をしていない。また、買収対価は直ちに支払わなければ買収処分は無効であるのに、原告は本件土地買収対価を受領していないし、買収対価の供託通知もない。
(ロ)、原告は本件土地のいづれについても訴外辰己又一に耕作を依頼したことはない。即ち、本件土地は、昭和二八、九年頃まで、原告と訴外辰己又一とが共同で耕作していたのであるがその頃より同訴外人は、本件土地を原告から買受けたとか、小作をしているとか称し、原告を排除して単独で耕作を始め、昭和三五年九月六日本件土地につき、神戸地方裁判所尼崎支局から「原告は本件土地に立入り辰己又一の耕作を妨害してはならない」旨の仮処分決定を得て、原告の耕作権を奪取したのである。従つて本件土地は、依然として、原告の自作地というべきである。もとより原告が本件土地を事実上耕作しなくなつて以来、原告は右辰己又一から本件土地の収穫物をうけとつていない。
昭和三五年、辰己又一は、尼崎市農業委員会に対し、自分が本件土地の小作人で、原告は自から耕作していない旨申し向け、農地法第三六条に基く、本件土地の売渡しを求め、これに対し尼崎市農業委員会は、辰己又一が本件土地の小作人或いは正当な権限を有する耕作人と認むべき証拠が全くないのに、且つまた、辰己又一が原告より本件土地を奪取したものであると原告が主張しているのを知りながら、原告の上申書、弁明書を徴することもなく、原告を委員会に喚問して、その弁解を聞くこともなくすなわち弁明の機会を与えず、たゞ辰己又一の言い分のみを採用し、たゞ一回の委員会をもつて、辰己又一を小作人または正当権限に基く耕作者と一方的に認定したうえ、兵庫県知事に対し、本件土地買収の進達をなした。
兵庫県知事並に国は右事情を何ら調査することなく、尼崎農業委員会の進達内容をうのみにして、本件土地につき買収処分を原告と利害相反する訴外亡辰己又一に売渡し、同人をして莫大な不法利得をなさしめたのである。
右は買収処分およびその手続の重大かつ明白な瑕疵というべきである。
(ハ)、本件土地が買収された昭和三七年三月一日当時の本件土地の時価は、自作地としての価格が金一、九七五万円である。本件土地は市街地に所在し、新阪神国道に面し、いつでも宅地等転用の許可をえられる情況にあつた。宅地としての時価は金二、三七四万円である。一方本件土地買収対価は金三万四、二八七円である。してみると右対価は、たとえ、対価算定の規則に基づき正しく算出されたものであるとしても、右算定の根拠となつた規定は現時の農地の社会的経済的価値を無視し私有財産を侵害するもので、且つ売渡しをうける相手方に不当の利得を得させるものであるから、右法令に従つてこれに基きなされた本件買収処分は憲法第二九条第一項、第三項に違反する。
(三)、本件土地買収処分が無効である以上、国は本件土地につきなした請求の趣旨記載の所有権移転登記の抹消登記手続をしなければならない。
第二、被告等の本案前の主張
原告は本訴において、本件土地に対する買収処分の無効確認を求めているが、原告の申立第二項の現在の法律関係に関する請求により、その目的を達することができるので、行政事件訴訟法第三六条により不適法である。
第三、被告等の本案に関する答弁及び主張
(一)、原告の主張事実中、請求原因(一)の事実は認める。但し原告に対する売渡は別紙目録記載第一の土地については、売渡処分は昭和二二年一〇月二日、移転登記は同二五年三月七日、同第二の土地については、売渡処分は昭和二二年一二月二日、移転登記は同二五年三月二〇日である。原告に対する買収処分は、原告が本件土地を訴外辰己又一に譲渡し、昭和二四年頃から引き続き同訴外人が耕作していることが判明したので、なしたものであり、昭和三七年二月一日買収令書を発行し、同月五日原告に交付されている。(二)の事実中、訴外辰己又一が本件土地を耕作している事実、同人が原告主張の仮処分決定を得た事実は認めるが、その余は争う。(三)の事実中、買収対価が金三四、二八七円であることは認める。その余は争う。
(二)、農地法第一五条に基づく農地買収には同法第八条所定の手続は不要である。また、本件土地買収期日は昭和三七年三月一日であるところ、被告は昭和三七年二月二七日買収対価を供託し供託通知書は昭和三七年三月三日頃原告に到達した。
(三)、農地法第一五条に基づく農地買収には、被買収者に意見を述べる機会を与えなければならないという規定はない。しかし尼崎農業委員会は、昭和二九年訴外辰己又一から、同人が本件土地を耕作している旨の申出があつて以来、附近の農民、農会長等より事情を聴取し、さらに、原告、辰己又一両名より十分事情を聴取した。そして尼崎農業委員会は辰己又一が原告の承諾を得て昭和二四年頃より引続き本件土地を耕作しているものと認定したのである。
被告兵庫県知事は右のような調査を行つていない。しかし同被告は尼崎農業委員会の進達を正当と認めれば、それに基づき買収令書の作成交付等の手続を行えば足りる。被告国は、自から買収手続を行なわないのであるから、調査を行う必要はない。
(四)、本件土地買収の対価は農地法第一二条第一項、農地法施行令第二条第一項(本件の場合同法第一五条により準用)に基き別紙の算出根拠で算出せられたが、右法令および本件買収処分は憲法第二九条第一項、第三項に違反しない。本件買収対価金三四、二八七円は憲法第二九条第三項の正当な補償にあたる。
すなわち憲法第二九条第三項にいう「正当な補償」とは、憲法が私有財産権に公共性の一面を認めていて、その補償も財産権の尊重と公共の福祉の要請との総合調和の観点から解釈されねばならないから、必ずしも完全補償を意味せず、相当な補償を意味するものと解すべきである。ところで右各法令によると、農地買収の対価は「その農地についての法第二一条第一項の規定による小作料の最高額に一一を乗じて算出される」と規定されており、これにより算出された額はいわゆる自作収益価格方式に基く自作収益価格と一致するのであつて、自作農創設を実現するための旧自作農創設特別措置法第三条に基づく農地買収対価もこの自作収益価格方式により算出され右方式により算出された買収対価は憲法第二九条第三項にいう「正当な補償」にあたること最高裁昭和二五(オ)第九八号昭二八・一二・二三大法廷判決の認めるところである。農地法は、右農地改革の精神およびその諸制度を受けついだ法律であるから、同法による農地買収の場合における対価の価格決定構想も自作収益価格方式によることが制度上おのづから要請されるのである。
(自作収益価格算定方式は別紙のとおり)
右方式は今日の社会経済的状態の下においても農地所有権の実質的内容を考慮すれば極めて合理的なものといわなければならない。
即ち、農地の所有権は、かつてのような完全絶対な権利ではなく、今や公共の福祉の要請からその本質自体に変容を受けた相対的権利に転化し、処分の自由は制限され、耕作以外の目的に変更することを制限され、小作地の引上は制限され、小作料は一定額に統制されているのであつて、今日においては農地所有権は、いわば一定の生産利益(小作料)を産む生産手段たる農地についての収益的機能をもつにとどまる財産権とみるのを相当とする。そして右農地所有権の収益的性質を基礎とし、これに農地買収が自作農創設の目的達成に関することを加味して考えた場合、自作収益価格算定方式に基く自作収益価格をもつて農地所有権に対する相当な補償にあたるものと解釈することが最も適当なものと言わなければならないものである。のみならず、そもそも本件買収は、自作農創設のために政府が買収して売り渡したのに対し、その売渡をうけた者が期待に反し第三者に耕作させるに至つたことから、当初の目的であつた自作農創設の目的に供せられるべき状態に引戻すためになされたものに外ならないから、農地法第九条による買収の対価の額(自作収益価格)以外の額をもつて買収しなければならない理由はどこにも見当らないのである。
(証拠省略)
理由
一、原告の、被告国および被告兵庫県知事に対する本件買収処分の無効確認を求める訴は、本件買収処分の無効を前提とする。被告国に対する所有権移転登記の抹消を求める訴によつてその目的を達することができるから、この点に関する本訴請求は行政事件訴訟法第三六条により、不適法として却下すべきものである。
そこで、以下被告国に対する所有権移転登記の抹消手続を求める請求について判断する。
二、請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。(但し成立に争いのない甲第一、二号証の各一、二によると、原告に対する売渡は別紙目録記載第一の土地については、売渡処分は昭和二二年一〇月二日、所有権移転登記は同二五年三月七日、同第二の土地については、売渡処分は同二二年一二月二日、所有権移転登記は同二五年三月二〇日である。)
三、請求原因(二)(イ)の無効原因について、
農地法第一五条による農地買収(前認定のとおり、本件買収が同条による処分であること当事者間に争いがない。)において同条第二項により準用される買収手続は同法第一〇条ないし第一四条までであり、従つて同法第八条の手続は本件買収には不要であり、また本件土地の買収期日が、前認定のとおり、昭和三七年三月一日であるところ、成立に争いのない乙第二、三号証の各一、二によると、昭和三七年二月二七日、農林大臣河野一郎が、原告が本件土地の買収対価の受領を拒絶したとして、本件土地の買収対価三万四、二八七円を供託し、供託通知書は同年三月三日頃原告に到達したが、原告は翌四日付で、右供託通知書を京都農地事務局に返送したことが認められる。
してみるとこの点に関する原告の主張は理由がないといわねばならない。
四、請求原因(二)(ハ)の無効原因について、
本件土地の買収対価が三万四、二八七円であること当事者間に争いなく、成立に争いのない甲第一二号証、証人東前一男の証言(第二回)によると、右対価は、別紙買収対価の算出根拠記載のとおり算出されたことが認められる。ところで農地法第一二条第一項、同法施行令第二条第一項第一号に基き算定された右対価は、別紙自作収益価格算定方式記載のとおり、自作収益価格であつて、自作農創設のための旧自作農創設特別措置法による農地買収の対価も自作収益価格方式により算出され、右買収対価が憲法第二九条第三項にいう「正当な補償」にあたるものであること、すでに判例の認めるところである(最判昭和二五年(オ)第九八号昭和二八年一二月二三日大法廷判決、行政事件裁判例集四巻一二号二九二一頁)。農地法は、右自創法の諸制度を受け継いだ法律であつて、同法の下においては自作農地を原則とし、小作農地の認められる場合の農地所有権は法定の小作料の収益権を内容とする権利というべきであり、法の容認しない小作農地についても同様に考えるべきであり、このような場合に、小作関係を排除し、自作農を創設するためになされる農地買収の対価についても、右のような権利の実体を基礎にすべきもので、買収の対価を前記のとおり自作収益価格によつたことはきわめて相当であつて、憲法第二九条第三項の「正当な補償」というべく、従つてまた本件買収対価の算出基準を定めた前記法令、および前記対価でした本件買収は、何等憲法第二九条第一項に違反するものでない。此の関係は、農地が将来市街地としての発展性があり、従つて巷間における交換価値が高騰している事情がある場合であつても(鑑定人福田弥平の鑑定の結果では本件土地に以上の事情がうかがえるが)、農地であるかぎり、農地法第七条第一項第三号による指定がない以上、農地所有権の前記のような権利の実体に何等変容を強いるものではないから、買収の対価の算定についても影響をもつものでないというべきである。
以上により、この点に関する原告の主張もまた理由がないといわなければならない。
五、請求原因(二)(ロ)の無効原因について、
成立に争いのない甲第一ないし一五号各証、証人辰己こはる、同辰己源次郎、同国府喜一郎の証言、原告本人尋問の結果、証人東前一男(第一回)、同辰己ふみ子の各証言の一部(いずれも後記部分を除く)を綜合するとつぎの事実が認められる。
別紙目録第一の土地は以前原告の兄辰己源次郎が小作権を有していたが、昭和五年頃から原告が源次郎からその権利を譲受けて耕作し、同目録第二の土地は原告の弟辰己又一が小作権を有していたところ、終戦当時には原告と又一は相談の上右二筆を共同で耕作し、収穫を分け、共同で二筆を小作していた。原告は戦前より電話局に奉職していたので、妻こはるが事実上右共同耕作に当つていた。本件土地二筆は前述の通り昭和二二年一〇月二日付で自創法により原告に売渡されたが、その後も右共同耕作関係は依然として継続していた。昭和二七年頃こはるが高血圧のため農耕が苦しくなつたところ、又一がこはるにいろいろと嫌味をいうて排斥したので、こはるが耕作に行かなくなり、しばらく原告が休日等を利用して耕作に参加していたがそれも続かず、昭和二九年頃からは又一が専ら耕作し、収穫を独占するに至つた。之は又一がこはるの関与を排斥したためにおこつたことで、原告が又一の単独耕作を認めたものでなく、原告方より自ら又は兄源次郎を通じ度々返還を求めたが又一は応じず、昭和三五年には、原告から昭和二五、六年頃、本件土地の譲渡をうけたとして、尼崎市農業委員会に対し、たびたび農地法第一五条による買収方を陳情し、同年九月六日には、原告に対し立入禁止等の仮処分をなし、同農業委員会では兄弟間の争いとして、しばしば調停を試みたが結局、折合わず、昭和三五年一二月二四日には、又一が単独で本件土地を耕作しているとの認定に基き、なお調停の努力をつづけるということで、農地法第一五条による買収の決定をし、その後そのまま兵庫県知事に対し右買収の進達をし、同知事が本件買収処分をした。
以上のとおり認められる。
証人辰己ふみ子の証言および甲第四、五号証中に本件土地は昭和二五年二月中旬、このうち別紙目録第一の土地は金二万円で、同第二の土地は昭和一九年一二月原告の長男勲が又一の家より持去つた米一〇俵の代償として各譲渡され、昭和二五年頃以来又一が耕作していた旨の供述および記載があるが、前記認定の事実や原告本人尋問の結果にてらし、たやすく信用できないし、その他右認定に反する証人東前一男(第一回)の証言も前記の各証拠にてらし信用できない。また甲第六号証は証人国府喜一郎の供述によると、事実上の耕作者を証明する趣旨に過ぎないことが明らかである。
右認定の事実によると、本件土地は自創法により原告に売渡され原告の所有となつたが、(その売渡の効力は有効と解する外ない)原告と又一が共同で耕作していたもので、その関係は原告が本件土地の二分の一につき又一の耕作を認めたものであり、他の二分の一は自作していたところ、自作部分についてはその後又一が原告を排除して無権限耕作をしているものと解するのが相当である。従つてこれを本件土地全部の小作関係と認めてした本件買収処分は又一の正当な耕作権の認められる原告の本件土地についての所有権の持分二分の一については適法であるが、他の持分二分の一については事実誤認によるもので違法である。そして証人東前一男(第一回)は尼崎市農業委員会は事実を調査して買収した旨供述しているが、成立に争のない甲第一〇号証、証人辰己源次郎、国府喜一郎、辰己ふみ子、原告本人の供述によると、又一は原告から本件土地を譲受けたと主張していたがその譲渡証はなく、兄の辰己源次郎も前認定の事実を明言しておるところ、当時の同市農業委員国府喜一郎の述べる所によつても同農業委員会は原告と又一の関係につき十分調査せず事実をよく確かめずに買収を決定して進達し知事がそれを受け容れたことが窺われるから、前記事実誤認は明白重大な瑕疵と認めるのが相当である。
六、してみると本件土地についての買収処分は、原告の所有権の持分二分一については無効であつて、原告の被告国に対する所有権移転登記の抹消登記手続の請求は、本件土地のうち二分の一の持分につき理由があるから、この限度で認容し、(所有権移転登記の抹消請求は、当然持分二分の一の移転登記への更生登記の請求を包含すると解される昭和三八年二月二二日最判参照。)その余を棄却し、訴訟費用につき民訴法第九二条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 森本正 菊地博 保沢末良)
(別紙物件目録省略)
買収対価の算出根拠
農地法第一二条一項、同法施行令第二条一項一号により、近傍類似(同法施行規則第一四条の二別表第三の土地数値算定基準の「田の部」所定の自然条件及び作業条件の類似)の尼崎市久々和字永長三五番地の一所在池沢義雄所有の田二反一畝歩等及び同市尾浜字竹の下一六九番地所在桜井清次郎所有の田一反一畝歩等(いずれも一級小作地)の同法第二一条一項の規定による小作料の最高額(同法施行規則第一四条の二別表第一農地等級一級一反歩当りの額)一四一〇円に一一を乗じて次の数式による。
(1)尼崎市久々和字永長二六番地田九畝一五歩
1.410円×285/300×11=14.740円
(2)尼崎市尾浜字竹の下一六四番地田一反二畝一八歩
1.410円×378/300×11=19.547円
以上
自作収益価格算定方式
生産高の基準を田について算出し、標準地水稲反当玄米収量を二石一斗(昭和三〇年農林省統計調査部平年反収二石二斗一升から勢値の標準誤差率(四、九%)だけ下げた平年反収の下限を採用)とし、これを昭和二七年産米生産費調査における割合により販売分(一石四升)と自家消費分(一石六升)に分ち、販売分については昭和三〇年産米政府買入価格により一万二六八円(石当り、九八一〇円)(包装代一八七円を含む)自家消費分については昭和三〇年産米消費者価格から中間経費を控除して価格(石当九、〇二五円)により九五六七円の金額に換算し、これに副産物の価格二一三二円を加えた金額を反当粗収益とし、これより反当り生産費用二万四一円(物財費八〇九一円、雇傭労働費七九六円、実族労働費一万二五〇円、資本利子六三四円、租税公課二七〇円の合計)を控除した残額が、耕作者としての反当純収益であるが、耕作者としては企業者利潤を見なければならないから、これを反当生産費用の四%(八〇二円)とし、これを控除した金額(一一二四円)が、結局耕作者が土地を所有することによつて得る土地収益(地代部分)である。
ところで、農地法第二一条および農地法施行規則第一四条の二に基く小作料最高額の基準決定のための調査の結果によると、現実の平年反収は二石一斗二升であつて、右現実の反収に基く土地収益を反収二石二斗一升の田と反収二石一斗二升の田の土地数値(土地評価点数)を基にして計算すると、反当土地収益(地代部分)は一〇九一円となる。これは小作料基準額でもあるから、その反当固定資産税四九七円を控除されば純土地収益が得られ、この純土地収益を平均利子率で資本還元すれば次のとおり自作収益基準価額が得られる。
自作収益基準価格(農地基準価格)=小作料基準額-固定資産税課税額/平均利子率
11.880円 = 1.091円 - 497円 / 5%
そして右自作収益基準価格一万一、八八〇円の右小作数基準額に対する割合は一一倍である。
そこで現在各農地は農地法第二一条により小作料の最高額は右小作料基準額を基礎として具体的な農地の地力等級に応じて定められている(農地法施行規則第一四条の二)から、右一一倍の借率をその農地についての小作料の最高額に乗ずるとき、その農地へ具体的な自作収益価格が算出される。
以上